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第6話 『一日ちがいの命拾い』

2011年10月30日 高星輝次

イラン政府が購入した4輪駆動車のアフターサービスが私の仕事である。4輪駆動車のユーザーとなる政府機関は、前出の革命中央委員会や、道路交通省だけではなく、イラン赤十字(正しくはイラン赤新月社というべきか)、NHKと協力提携しているイラン国営TV、そしてイラン国営石油会社(NIOC)などがあった。

イランの石油産出は南部の都市アファーズなどに多いため、当然わが4輪駆動車も油田近くにも行っているわけである。前任者が赴任した直後からすでに南部のアファーズへの巡回サービスを求められていたが、安全上の懸念から日本の本社の許可が取れないでいた。私自身もなんとかアファーズへの巡回サービスに行けるよう本社に要請をしていた。そして、ようやく1985年3月7日にアファーズへの巡回サービスの許可が下りたのである。

テヘランは土漠の土地である。イランは砂漠の国と思ってきたが、土漠地帯はまるで大地全てが工事中の造成地の様な風景である。しかし、南部の油田地帯のアファーズなどは本物の砂漠で、一面綺麗な砂で覆われているという。

油田地帯の煙突の上で燃える炎が夜の砂漠を照らす時、それはもう幻想的な美しさである。と南部の砂漠地帯を見た方から教えられ、イランに来たからには是非見てみたいと思っていた。今まで巡回サービスに行っていない地帯に行くので、色々故障の話とか、サービス部品がないとか問題山積で強烈な苦情の嵐でハードな出張になることは明白だが、私の頭の中では、砂漠の中でチロチロと燃える油田の明りと月明かりに照らし出される幻想的砂漠の風景が広がっていた。

しかしである、出張前日の3月6日朝、私の事務所にダブード君が手のひらを上に向け、大きく腕を広げたジェスチャーで入って来て言った。「高星さん、アファーズの街は今朝イラクの攻撃によって壊滅状態となった。明日のアファーズ出張はできなくなりました」さっそくN商社の関係者とも協議し、出張は中止という事にして要請元の国営イラン石油会社を訪ねた。

応対にでた幹部も即座に「おまえたちが今日ここに来た理由はわかっている。残念だが今回のアファーズ巡回サービスは中止だ」と言った。出張日程が1日ずれていたら・・・私はアファーズに消えていたかもしれない。

この日を境に私は事務所の壁にイラン全土の地図を貼りだし、毎朝ダブード君から寄せられる現地のニュース報道から戦火の広がりを記録し始めた。

  • 3月6日 南部の油田地帯 アファーズ、原油積み出し港バンダル・アバス爆撃
  • 3月8日 アファーズの北の都市 デズフル爆撃
  • 3月9日 更に北上してコーラム・アバッド、国境地帯のピランシャー爆撃
  • 3月10日 古都イスファハン、ナハバンド、国境地帯のイラム、マリバン爆撃
  • 3月11日 北部工業都市タブリッツ、中央部のアラック爆撃

日を追うごとに、しかも確実にイラクによる攻撃は激化・拡大していることがさすがの私にも実感として迫ってきた。

「もしかしたらテヘラン爆撃も近いのではないか」と思う一方で在イラン日本大使館発表の「重大な用事のない方はイラン国外へ退去することもやぶさかではない」という言葉に、「まだ大丈夫なんだろう。取り乱してはいけない」と平常を装って戦火を見守っていた。

誰しも急激な戦火の拡大に大きな不安を抱きつつも、経済大国日本の企業戦士として、自分たちの会社・チームが真っ先に戦線離脱をすることを良しとはしなかったのだろう。各企業の日本本社も、安全確保に万全を期すようにとはアナウンスしながらも「退去せよ」という業務命令は出せずに時間が過ぎていったように思える。

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戦火拡大を記録するイラン地図

こちらの記事は、トルコ・イタリア・ポルトガル雑貨のオンラインショップ「JUNPERIAL SHOP」様がホームページで掲載されている、『イラン・イラク戦争 奇跡の救出劇「~日本・トルコ友情物語~ -高星輝次さん編-」』から、店主のJUNKO様のご厚意により転載させていただいているものです。

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