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第9話 『脱出 -トルコへ -』

2012年3月19日 高星輝次

1985年3月12日のテヘラン空爆の日から、自分の命の危険というものを感じながらの日々を過ごした。昼間は国外脱出用のチケットを求めて航空会社のオフィスをめぐり、夜は空爆の音か対空砲火の音か区別はつかないものの、連夜空を焦がす砲弾の光を見上げながらホテルの地下室での軟禁状態。

そして3月18日の夜、N商社の方から「明日、トルコの救援機に乗れるかも知れません」という情報がもたらされた。期待7割、本当に今回は脱出できるの?という猜疑心3割、それでも当然「脱出」に望みを託します。

3月19日、早朝からテヘラン メヘラマバード国際空港へ全員で向かう、N商社のKさんがトルコエアーのオフィスへ行って我々全員の航空券を買って空港で合流する計画だった。空港は異様な雰囲気だった。それほど離発着があるとは思えないのに、空港周辺の道路は大混雑、空港ビルも人であふれかえっている。

チケットを購入しにいったKさんがなかなか空港に戻らない、みんなじっと待つ。やがてやっとKさんが現れる、一瞬みんなの顔に喜びの笑顔が漏れる、でもまだこれから先なにが待っているかわからない。搭乗手続きで待っていた私たちに爆撃音の大音響、ついにここまで来て空港爆撃か?ジェット戦闘機が緊急発進する爆音。外の様子はうかがう事の出来ないビルのど真ん中でひたすら無事出国できることに望みをつなぐ。

パスポートコントロール、いくら並んでいても列は先へ進まない。いよいよしびれを切らしたN商社のMさんがパスポートコントロールのカウンターへ向かうのに後についていく。そこでは大勢のソ連人の団体がいて、列の後ろの方のソ連人のパスポートを手渡ししてパスポートコントロールを占拠していた。

Mさんの激しい抗議にも耳を貸す様子はない。その時ソ連人の年配の婦人が私に言う。「あなたたち日本人の飛行機はあなたたちが乗り込むまで待ってくれるでしょう。でも、私の国の飛行機は危険となったら私たちを置いて飛び立っていきます。どうか私たちを先に行かせてください」と、でも私たちの乗る飛行機は日本の飛行機ではないんです。この時の複雑な気持ちは今も忘れていない。

やがてようやく搭乗することができた。滑走、離陸、上昇・・・・無事上空へ心の中で祈る。上空に出て安定飛行に移った、ちゃっかりビールを要求して見る。スチュワーデスは「OK ちょっと待って」という。飛行機の中はやはり緊張に静まりかえっている。

しばらくして飛行機の中がざわめく、我々の乗る飛行機の主翼の先にピタリと寄り添うジェット戦闘機が見えた。パイロットの顔がわかるほど近い、どこの国の戦闘機か我々にはわからない。反対側の窓際でも外にくぎ付けになっている。戦闘機に両サイドを挟まれたようだ。イランの護衛なのか?イラクの攻撃を受けるのか?ここまで来て私たちの運命は?気持ちが凍る・・・・・

そして機長の「トルコへようこそ。当機はただいま国境を超えました」というアナウンス。機内が大きくどよめく、仲間と喜ぶ声、機長への感謝。ほどなくして一斉にビール ウイスキーなどのドリンクサービスが始まる。

アンカラ空港へ着陸。普段、飛行機が無事着陸したくらいでは拍手などしない日本人が大歓声で無事の着陸に感謝する。 そして再び離陸してイスタンブールへ。

アンカラへ着陸した頃からイスタンブールに着くところの記憶は私の脳には残っていない。気丈に装っていても極度の恐怖と緊張だったのだろうか、今もってこの時の記憶は戻ってこない。この後の記憶はイスタンブールへ無事たどり着いて、エタップホテルで仲間と命がつながったことを喜びあって、トルコの赤ワインで乾杯するシーンからよみがえる。 そして幸福の美酒に酔い・・・再び記憶が途切れていく・・・

トルコの人たちに命を助けていただいた日。

N商社の現地スタッフとKさんと高星さん明日の命の知れない日々に「最後の記念写真になってしまうかも?」と思いつつ撮影されたもの

N商社の現地スタッフとKさんと高星さん
明日の命の知れない日々に「最後の記念写真になってしまうかも?」と思いつつ撮影されたもの

こちらの記事は、トルコ・イタリア・ポルトガル雑貨のオンラインショップ「JUNPERIAL SHOP」様がホームページで掲載されている、『イラン・イラク戦争 奇跡の救出劇「~日本・トルコ友情物語~ -高星輝次さん編-」』から、店主のJUNKO様のご厚意により転載させていただいているものです。

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