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第5話 『空襲警報を聞きながら』

2011年10月9日 高星輝次

1985年2月頃からテヘラン市内でも度々空襲警報が鳴る様になって来た。相当高い高度を飛んでくるらしく、空襲警報を聞いても実際にイラク空軍機を目撃するわけではないが、地上からは高射砲で迎撃をするらしく空襲警報が鳴ると高射砲の音がしばらく鳴り響く。

このころになると、灯火管制なのか電力不足なのか停電することも増えてきた。私の住んでいるアパートはN商社が社宅のように借りているアパートの一室を使わせていただいていた。韓国人のナミさんというコックが毎日アパートに来て夕食を作ってくれていた。

ご飯は米を研いで日本から持ち込んだ変圧器と炊飯器で夕方にはスイッチを入れて帰っていくことになっていた。ところが、夕方停電になると炊飯器が途中でストップすることになる。

炊き始める前に停電になったのはまだいいが、いったん沸騰したあたりで停電になった場合の方が悲惨な炊きあがりになった。停電の時は帰ってきてから炊飯器の炊きかけの米を鍋に移してガスコンロで仕上げの炊きこみをすることとなった。

27歳になったばかりのわたしが外国で空襲警報を聞きながら、高射砲がさく裂する大音響の中、停電の暗闇でろうそくを灯して夕食を食べている姿は「なかなか体験できないことを今私は体験している」という気分であまり恐怖も感じずにそんな生活を楽しんでいた。

戦況に関する情報についてはN商社の所長が大使館や日本人会からの情報を我々にも伝えてくれていた。まだこの時点では、「イラク軍機がイラン北西部の国境を侵犯するとテヘランにも空襲警報が出るようになっているが、イラク軍はイラク領内からテヘランまで飛んできて攻撃をして帰るだけの航続距離のある戦闘機は持っていないので、テヘラン空襲は無いだろう」という見解が伝えられており、そんなことからもあまり恐怖を感じてはいなかった。以前にダブード君が言っていたカラジダム攻撃に向かったという戦闘機も我々の見間違いだったかなくらいに考えていた。

またこのころから、砂糖やガソリンが配給制度となっていった。日常の交通手段がタクシーを雇って使っている私たちにとってはガソリンが手に入らなくなるという事は、移動手段を奪われることとなる深刻な問題であった。

ガソリンが配給制になるという話がダブード君から教えられて街を見てみると、そこにはもうガソリンスタンドに並ぶ長蛇の列が出来上がっていた。そしてこの国のおおらかさというか、いい加減さというか、クーポン制度になるというアナウンスがあったその日の夕方にはすでに「闇クーポン券」なるものが出回り、高額で売買されていたようです。

そのようなわけで、空襲警報が鳴る中でも移動の手段は確保でき、「インシャーラ」(すべては神のおぼしめし)と言いながらわが身の運命を成り行きに任せていました。

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自炊する沼田さんと高星さん

こちらの記事は、トルコ・イタリア・ポルトガル雑貨のオンラインショップ「JUNPERIAL SHOP」様がホームページで掲載されている、『イラン・イラク戦争 奇跡の救出劇「~日本・トルコ友情物語~ -高星輝次さん編-」』から、店主のJUNKO様のご厚意により転載させていただいているものです。

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